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生成AI 情報漏洩リスクの事例と対策|パナソニック系の個人情報アップロードから学ぶ

執筆:AIセキュリティ顧問編集部

社内の人事データの束が、社外のAIサービスの入力欄へ持ち出されようとしている様子を表したイラストと、記事タイトル

この記事の要点

  • パナソニック オペレーショナルエクセレンスは2026年10月23日、人事情報システム導入プロジェクトのメンバーが、社内で利用を禁止していた外部の生成AIサービスに個人情報を含むデータをアップロードしたと公表しました。
  • 対象は従業員約7万5千人・元従業員約17万8千人の社員番号・住所・電話番号・メールアドレスと、家族計約8万1千人の氏名を含む連絡先です。外部からの攻撃ではなく、ルール違反によるものです。
  • AIの学習に使う機能は無効でしたが、削除後もサービス事業者側で30日間データが保持されていました。学習オフは「社外に渡っていない」ことを意味しません。
  • 個人情報保護委員会は2023年の注意喚起で、事業者が個人データを生成AIに入力する場合、利用目的の範囲内か、機械学習に使われないか等を十分に確認するよう求めています。
  • 禁止するだけでは入力は止まりません。承認したAIの提供、入力してよい情報の線引き、実データの代わりにダミーデータを使う手順、技術的な遮断を組み合わせる必要があります。

業務の中で、従業員や顧客のデータが社外の生成AIに入力されてしまう——多くの企業が心配してきたこの種の事態が、国内の大手グループで公表されました。パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社は2026年10月23日、従業員・元従業員とその家族の個人情報を含むデータが、社内で利用を禁止していた外部の生成AIサービスにアップロードされたと発表しました[1]。

外部からの攻撃ではなく、プロジェクトメンバーのルール違反による入力です[1]。AIの学習には使われない設定だったとされる一方で、データは削除後もサービス事業者側に30日間残っていました[1]。

この記事では、公表内容を整理したうえで、「学習オフなら問題ないのか」「個人情報を生成AIに入れると法的にどうなるのか」「入れてしまったら何をするか」「どう防ぐか」を順に解説します。情報は2026年10月27日時点のものです。

パナソニック系で何が起きたのか?

パナソニック オペレーショナルエクセレンス(以下、PEX)が子会社のパナソニック デジタルと進める人事情報システム導入プロジェクトで、プロジェクトメンバーが個人情報を含むデータを、PEXが利用を禁止している外部の生成AIサービスにアップロードしました[1]。PEXは「外部からの不正な操作によるものではなく、プロジェクトメンバーによるルール違反」と説明しています[1]。

約25万3千人

従業員・元従業員

従業員約7万5千人、元従業員約17万8千人の合計[1]

約8万1千人

従業員・元従業員の家族

従業員家族約5万5千人、元従業員家族約2万6千人の合計[1]

9月29日

個人情報保護委員会へ報告

2026年[1]

アップロードされたデータの内容
対象者人数含まれる情報
従業員約7万5千人[1]社員番号、住所、電話番号、メールアドレス(氏名は含まない)[1]
元従業員(1978〜2026年度の退職者)約17万8千人[1]社員番号、住所、電話番号、メールアドレス(氏名は含まない)[1]
従業員の家族約5万5千人[1]緊急連絡先として登録された家族の氏名、住所、電話番号、メールアドレス[1]
元従業員の家族(2016年以降の退職者のみ)約2万6千人[1]同上[1]

2026年10月27日時点の公表内容。対象データは「2026年4月時点の人事情報システムに登録されていたデータの一部」とされています。合計人数は公表文に記載がなく、報道では約33万4千人とされています[2]。

公表文によると、発覚直後に当該メンバーが生成AIのチャット履歴と業務用PC内の対象データを削除しました[1]。PEXがサービスの運営事業者に照会したところ、データをAIの学習に利用する機能は無効になっていたため、他の利用者への回答に使われることはないとの回答を得たとしています[1]。

一方で、利用者が削除しても事業者はセキュリティと法令順守のために削除日から30日間データを保持し(保持中は厳格にアクセス管理され、監査等の要請以外ではアクセスされないとの説明)、今回のデータは10月25日以降は事業者内でも保持されないと説明されています[1]。PEXは、現時点で個人情報が公開された事実や不正利用による被害は確認されていないとしています[1]。

AIの学習に使われない設定なら問題ないのか?

問題はあります。今回の事業者の回答によれば、学習に使われない設定で防げるのは「他の利用者への回答に使われること」です。データが社外の事業者に渡ることは変わらず、今回も削除後30日間は事業者側にデータが残っていました[1]。

多くの生成AIサービスでは、入力内容は事業者のサーバーで処理されます。学習に使わない設定でも、不正利用の監視などのために一定期間保持される場合が少なくありません(保持の有無や期間はサービスや契約によって異なります)。その間、データは事業者の管理下にあります。社内の承認を受けていないサービスであれば、契約条件や保持期間、アクセス管理を会社として確認していないことになります。

このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。

— 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」[4]

個人情報保護委員会が求めているのは、入力する前の確認です[4]。今回のケースでは、学習が無効だったことは入力後の照会で分かったものでした[1]。会社として事前に確認したサービスかどうかが、最初の分かれ目になります。

個人情報保護委員会は一般の利用者に対しても、入力した個人情報が機械学習に使われ、不正確な内容を含めて出力されるリスクがあるとしたうえで、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認して判断するよう呼びかけています[4]。社員一人ひとりが規約を読み比べるのは現実的ではないため、会社が確認したうえで「このサービスなら使ってよい」と示すことが、実務上の答えになります。

社内のパソコンから社外のAIサービスへ送られたデータが、学習には使われないものの事業者側の保管庫に一定期間残る様子を表したイラスト
学習に使われない設定でも、入力したデータが事業者側に一定期間保持される場合があります

個人情報を生成AIに入力すると、法的にはどうなるのか?

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、事業者が個人情報を含むプロンプトを入力するときは利用目的の範囲内かを十分に確認し、本人の同意なく個人データを入力して応答以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています[4]。

生成AIへの入力に関わる個人情報保護法の主な論点
論点個人情報保護委員会の整理
利用目的個人情報を含むプロンプトの入力は、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認する[4]
学習利用本人の同意なく個人データを入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合は法違反の可能性。機械学習に使わないこと等を十分に確認する[4]
外部サービスでの取り扱いクラウドサービスの利用が第三者提供や委託に当たるかは、事業者側が個人データを取り扱うことになっているかで判断する(クラウドサービス一般についての整理)[6]
報告義務本人の数が1,000人を超える漏えい等が発生し、または発生したおそれがある場合は委員会への報告対象。速報はおおむね3〜5日以内、確報は30日以内(不正の目的によるおそれがある事態は60日以内)[5][7]
本人への通知通知が困難な場合は、事案の公表や問い合わせ窓口の設置などの代替措置が認められる[5]

2026年10月27日時点。個別の事案の法的な評価は、事実関係によって変わります。

PEXは今回、9月29日に個人情報保護委員会へ報告し、公表は個人情報保護法に基づく本人通知の代替措置として行うと説明しています[1]。問い合わせフォームと専用のフリーダイヤルも設けています[1]。ガイドラインが代替措置の例として挙げる「事案の公表」と「問い合わせ窓口の設置」に当たる対応です[5]。

なお、PEXの公表文は「漏えい」という言葉を使っておらず、どの報告対象事態に当たると判断したかも書かれていません[1]。生成AIへの入力が法的にどう評価されるかは、サービスの契約条件や事業者側の取り扱いによって変わりうるため、自社で同じことが起きたときは早い段階で法務や専門家に相談するのが安全です。

生成AIに入力してはいけない情報は何か?

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、AIの利用者が個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています[8]。どの情報を「不適切」とするかは各社が決める必要があり、その線引きが社内ルールの中心になります。

入力の線引きの例(会社が承認していないAIの場合)
情報の種類例扱いの目安
個人情報のまとまったデータ人事・顧客・会員の名簿、CSVの書き出し、問い合わせ履歴入力しない。承認済みのAIでも原則ダミーデータか匿名化したデータで行う
個人を特定できる情報氏名、住所、電話番号、メールアドレス、社員番号入力しない
社外秘・契約上の秘密未公開の決算・企画、取引先との秘密保持契約の対象情報入力しない
認証情報パスワード、APIキー、アクセストークンどのAIにも入力しない
公開済みの情報自社サイトの掲載文、公表済みの資料入力してよい

編集部による整理の例です。承認済みの法人向けAIでどこまで許すかは、契約条件と自社の規程に合わせて決めてください。

会社が承認した法人向けのAIであっても、個人データを入れてよいことにはなりません。入力する前に利用目的の範囲内かを確認する必要がある点は変わらず[4]、AI事業者ガイドラインも、AIの提供者が定めた利用上の留意点やサービス規約を守るよう利用者に求めています[8]。承認は「入力してよい情報の範囲」とセットで示す必要があります。

今回のデータのうち従業員・元従業員の分には氏名が含まれていませんでしたが、社員番号・住所・電話番号・メールアドレスが含まれていました[1]。氏名を外しても、他の情報と組み合わせれば個人を特定できる場合があります。「名前を消したから大丈夫」とは判断できない点に注意が必要です。

個人情報を生成AIに入力してしまったら、何をすればよいか?

まず事実を記録してから、サービス事業者への照会、対象人数の確定、報告と通知の要否の判断へ進みます。本人の数が1,000人を超えるおそれがあれば個人情報保護委員会への速報の対象になりうるため、社内のいずれかの部署が知った時点から概ね3〜5日以内という目安を意識して動く必要があります[5]。

入力してしまったときの初動

  • 入力した本人が上長と情報管理の担当部署へすぐ報告する(報告期限の起算点は、法人のいずれかの部署が知った時点)[5]
  • 削除する前に、使ったサービス名・アカウントの種類・入力した日時・ファイルや項目の範囲・件数を記録する
  • サービスの設定(学習利用の有無、履歴の保存)と、事業者側のデータ保持期間を確認する
  • サービス事業者に、学習への利用の有無、保持期間、削除の可否を照会する[1]
  • 対象となる本人の数と情報の種類を確定し、委員会への報告と本人への通知の要否を法務と判断する[5][7]
  • 本人への通知が難しい場合は、公表と問い合わせ窓口の設置を準備する[5]

今回のケースでは、発覚直後にチャット履歴と業務用PC内のデータが削除されています[1]。外に残る情報を減らすうえで削除は必要ですが、何をどれだけ入力したかが分からなくなると、対象者の特定や報告に支障が出ます。削除は記録を取ってから、という順番を社内の手順に書いておくと迷いません。

禁止するだけでは防げないのはなぜか?どう防ぐか?

今回のサービスは社内で利用が禁止されていたにもかかわらず、使われました[1]。アップロードの目的は公表されていませんが、一般に、禁止のルールだけでは業務を速く進めたいという動機を止めきれません。PEXも再発防止として、個人情報の取り扱いルールと生成AIサービスの利用管理の見直し、教育・啓発の強化を挙げています[1]。

  • 使ってよいAIを用意する:学習に使わない、保持期間や管理機能が確認できる法人向けのAIを承認し、社員が手元で使える状態にする。禁止だけだと、承認されていないサービスに流れやすくなる
  • 入力してよい情報を一覧にする:上の表のように、情報の種類ごとに「入れてよい/匿名化すれば可/入れない」を決めて配る
  • 技術的に止める:承認していない生成AIサービスへのアクセスやファイルのアップロードを、Webフィルタリングやデータ持ち出し防止(DLP)の仕組みで制限する
  • 作業手順に組み込む:システム導入やデータ移行のように実データを扱う作業では、生成AIに渡すのはダミーデータか匿名化データ、と手順書に書く
  • 困ったときに聞ける窓口を置く:「この情報を入れてよいか」をすぐ確認できる相談先があれば、自己判断での入力を減らせる

社員が承認されていないAIを使う「シャドーAI」は、禁止の周知だけでは見えにくい問題です。まず社内で実際に使われているAIを棚卸しし、使ってよいAIと入力してよい情報を明示することが出発点になります。考え方の全体像はAIセキュリティとは、よくある質問はFAQでも整理しています。AIの基盤を狙った攻撃については、LiteLLMのサプライチェーン攻撃の記事も参考になります。

経営層として確認しておきたいのは、次のことです。社内で使ってよいAIが決まっていて、社員がそれを使える状態になっているか。人事や顧客のデータをAIに入れてよいかどうかが、文書で示されているか。入力してしまったときに、誰に報告し、何を記録するかが決まっているか。どれかが「いいえ」なら、今回と同じ事態は自社でも起こりえます。

まとめ

パナソニック オペレーショナルエクセレンスの事案は、外部からの攻撃ではなく、社内で禁止された生成AIへのデータのアップロードでした[1]。今回も、学習に使われない設定だったにもかかわらず、データは削除後30日間事業者側に残っていました[1]。個人情報保護委員会は、入力の前に利用目的の範囲や学習利用の有無を確認するよう求めています[4]。

自社で同じことを防ぐには、使ってよいAIの提供、入力してよい情報の線引き、実データを使わない作業手順、技術的な制限を組み合わせることが必要です。入力してしまったときに備えて、記録・照会・報告の初動手順もあわせて決めておいてください。

よくある質問

生成AIに個人情報を入力すると、情報漏洩になりますか?

入力しただけで直ちに漏えいと判断されるとは限りません。個人情報保護委員会は、事業者が本人の同意なく個人データを入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合は法違反の可能性があるとしています。サービスの契約条件や事業者側の取り扱いによって評価が変わるため、入力してしまった場合は記録を残し、法務や専門家に早めに相談してください。

ChatGPTなどで学習をオフにしていれば、個人情報を入力しても大丈夫ですか?

大丈夫とは言えません。学習をオフにしても、入力したデータは事業者のサーバーで処理され、不正利用の監視などのために一定期間保持されることがあります。今回の事案(サービス名は非公表)でも、削除後30日間は事業者側にデータが残っていました。会社が承認したサービスかどうか、入力してよい情報かどうかを先に確認してください。

個人情報を生成AIに入力してしまったら、まず何をすればよいですか?

すぐに上長と情報管理の担当部署へ報告し、削除する前に、使ったサービス名、入力した日時、データの範囲と件数を記録してください。そのうえでサービスの学習設定と保持期間を確認し、事業者へ照会します。本人の数が1,000人を超えるおそれがあれば、個人情報保護委員会への報告の対象になりうるため、法務と早めに判断してください。

氏名を消したデータなら、生成AIに入力してもよいですか?

それだけでは安全とは言えません。社員番号、住所、電話番号、メールアドレスなどが残っていれば、他の情報と組み合わせて個人を特定できる場合があります。生成AIに作業を頼むときは、項目名だけや数件のダミーデータで依頼し、実データは使わない手順にするのが確実です。

社員が会社で禁止したAIを使うのを、どう防げばよいですか?

禁止の周知だけでは防ぎきれません。学習に使わない法人向けのAIを承認して使える状態にし、入力してよい情報の一覧を配ったうえで、承認していないAIサービスへのアップロードを技術的に制限するのが効果的です。迷ったときにすぐ聞ける相談先を置くことも、自己判断での入力を減らします。

出典・参考資料

  1. 公式発表外部生成AIサービスへの個人情報アップロードに関するお詫びとお知らせパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 パナソニック ホールディングス 2026-10-23 公開 2026-10-27 閲覧
  2. 記事パナソニックHD子会社、使用禁止の生成AIに従業員約33万人分の個人情報をアップロードITmedia NEWS 2026-10-23 公開 2026-10-27 閲覧
  3. 記事パナソニック、33万人分の個人情報を外部AIにアップロードASCII.jp 2026-10-26 公開 2026-10-27 閲覧
  4. 公式発表生成AIサービスの利用に関する注意喚起等個人情報保護委員会 2023-06-02 公開 2026-10-27 閲覧
  5. 公式発表個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(令和8年6月一部改正)個人情報保護委員会 2026-10-27 閲覧
  6. 公式発表「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A個人情報保護委員会 2025-07-01 公開 2026-10-27 閲覧
  7. 公式発表漏えい等の対応とお役立ち資料個人情報保護委員会 2026-10-27 閲覧
  8. 公式発表AI事業者ガイドライン(第1.2版)総務省・経済産業省 2026-03-31 公開 2026-10-27 閲覧

本記事の事実関係は、2026.10.27 時点で上記の出典をすべて再確認しています。 公表内容は続報で変わる可能性があります。最新の情報はパナソニック オペレーショナルエクセレンスの公表文を確認してください。

#生成AI#情報漏洩#個人情報#シャドーAI#個人情報保護法#AI利用ルール

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